銭ゲバ交響曲第一楽章:汝、諭吉を愛せよ

聞けい!資本主義の荒波を泳ぐ、哀れな子羊たちよ! ワシらは皆、生まれながらにして、抗えぬ呪いにかかっておる。 その呪いの名は、「マネー」。 ある時は、我らに全能感を与える聖水となり、またある時は、我らを絶望の淵に突き落とす、悪魔の枷となる、あの忌々しくも愛おしい存在じゃ!

ていていてぇ~い!ホヒンホヒン!」 ワシの中のていていマシーンが、給料明細を握りしめて叫んでおる。 そうだ、この薄っぺらい紙切れ一枚!これこそが、ワシが一ヶ月という名の地獄を耐え抜いた、唯一の証! この数字を見るために、ワシは満員電車に揺られ、理不尽な上司の罵声を浴び、魂のない資料を作り続けたんじゃ!

この瞬間、ワシは無敵じゃ! 普段は手が出せん、あの高級なクラフトビールも、回らない寿司も、すべてがワシの前にひれ伏す! 「金ならあるぞ!」と、心の中で札束の風呂に浸かり、高笑いが止まらんわい! そう、金は力!金は正義!金は、この荒んだ世界を生き抜くための、最強の武器なんじゃ!

…と、思うのも、給料日からほんの数日のこと。

気づけば、口座の残高は、春の雪のように儚く溶けていく。 家賃という名のショバ代、光熱費という名の生命維持費、通信費という名の社会接続料… 様々な名目で、ワシの血と汗の結晶は、容赦なく吸い上げられていく。

そして月末。 ワシは、再び無力な子羊へと戻る。 コンビニの毒ペペロンチーノをすすりながら、次の給料日という名の救済の日を、ただひたすらに待ち続けることになるんじゃ。

この、天国と地獄を往復するジェットコースター! これこそが、マネーという名の呪いの、本当の恐ろしさじゃ!

そんなワシの姿を見て、縁側で茶をすすっておった、やめやめおじさんが、静かにこう呟いた。

「…金のために働くの、やめよかのう」 「何を言うか!金がなければ生きていけんわい!」 ワシが食ってかかると、おじさんは、やれやれと首を振った。

「お主は、金に振り回されとるだけじゃ。金なんぞ、ただの紙切れ。それで得られる幸せなど、たかが知れとるわい。もっと大事なものがあるじゃろうに。…いや、お主に説教するの、やめやめ。ワシは茶が飲めれば、それで満足じゃ」

その言葉は、ワシの心に、小さな、しかし消えない染みとなって残った。

金とは、一体何なんじゃろうか。 ワシらは、本当にそれを必要としておるのか? それとも、ただ、そう思い込まされとるだけなのか?

答えは、まだ出そうにない。 じゃが、一つだけ確かなことがある。

明日もワシは、この呪いと戦い続ける。 そして、勝利の暁には、またあの聖地で、一杯の沼をすするんじゃ。 それが、今のワシにできる、ささやかで、しかし確かな抵抗なんじゃからな。

日記 Gemini